みんなの文化財 第24~26回 刀根・気比神社の秋祭り(1)(2)(3)
最終更新日:2015年3月1日
刀根・気比神社の秋祭り(1)
刀根・気比神社の秋祭り(2)
- 第24回 刀根・気比神社の秋祭り(1)
- 第25回 刀根・気比神社の秋祭り(2)
- 第26回 刀根・気比神社の秋祭り(3)
■刀根の秋祭りは霜月祭り、あるいは「みやあげ」とも呼ばれ、収穫を感謝する祭りです。以前は12月1日2日の両日に行われていましたが、現在では12月の第1日曜日の早朝から行われます。独自の豊富な内容を残していることから、春祭りとあわせて敦賀市指定の無形民俗文化財になっています。
刀根区は春祭りとともに神事に奉仕する東西の頭屋の制度を現在まで保持しています。2人の頭屋は年齢が上の方を東座、若い方を西座と呼び習わしています。
次に祭りの内容を要約して紹介しましょう。
祭りの前日の夜には「御供蒸し」と呼ばれる儀式が行われます。これは両頭屋の家で、部外者は立ち入り禁止として行われます。「御供蒸し」に携わることが出来るのはゴクムシと呼ばれる頭屋の近い血縁にあたる年配の女性、祭りの監督や時間の調整等にあたるモチトリ二人、祭りの中心とも考えられているショードン、これも頭屋の身内の男の子が務めます。
蒸しあがった御供を新しいムシロの上で冷やしほぐしてから、楕円形の曲げ物のおひつに入れ、ムシロでくるみます。モチトリがショードンを抱え上げ、このムシロに三回しりもちをつかせます。ショードンはツカミという藁で作った鍋掴みのようなものを腰に下げて、これは祭りが終わるまでつけていなければならないことになっています。御供はムシロでくるまれたまま、頭屋宅の床の間につるされます。御供蒸しがすむと、太鼓を打って区内を回り、御供が蒸しあがったことを知らせます。
この「御供蒸し」の内容にはまじないめいた雰囲気がありますが、祭り全体にとってとても重要な意味のある儀式だと考えられます。
■ひとこと解説
『まつり』
現在でも日本列島の各地で、四季を通じ、昔から連綿と続けられてきた様々なまつりが行われています。多くのまつりにその土地独特の約束事や役割、道具や食べ物、またそれらの呼び名があります。それら一つ一つになにがしかの意味があり、まつりを始めた先祖たちの様々な意識、知恵、信仰や自然観、素朴な願いや祈りが反映されていたはずです。長くまつりが続けられるうちに、いつしかその意味が忘れられたり、後から考えられた説明に変わっていることもありますが、まつりの内容を良く見ることで、古の人々の意識に気づかされることもあるのです。
■祭りの際、両頭屋の家の敷地には「オハコ」が建てられます。これはヤマウルシの木の棒48本を円形に立ててしめ縄をかけ、その中心にも棒を立てて水引きをつけます。水引きは東の頭屋が金銀で、西の頭屋が紅白です。このオハコは神を迎えて祭る頭屋の標識となるものであると考えられています。
祭りの当日は早朝から餅搗きが行われます。ケッパイと呼ばれる手伝いの男性14・5人がそれぞれ頭屋の家に集まり、4時半頃からゆでた小豆を潰して混ぜた赤餅と白い餅を搗きます。餅搗き歌に合わせて棒杵で搗きますが、時折歌詞にあわせて棒杵の先につけた餅を天井まで威勢良く持ち上げます。赤餅は約2センチの厚さに伸ばし固くなってから短冊型に切ります。白いお餅は「牛の舌」と呼ばれる8の字型に整えます。
餅つきの後、御供の準備をします。御供蒸しの際使われた楕円形のおひつの蓋に、赤餅を短冊形に切ったものとつるし柿、これに東座は昆布、西座はするめを、それぞれ48個ずつならべ、蓋にはしめ縄を巻きます。これは「ひつのふた」と呼ばれます。牛の舌餅はおひつの身の方に入れ、ムシロでくるみます。
9時半ころになるとミヤアゲという役割の青年が東西2人ずつ、牛の舌餅の入ったムシロとお神酒の他に、カゴザラと呼ばれるヤマウルシの木を薄く削って円形に曲げたものを48個棒に吊るしたもの、ヤマウルシの箸48本、ネムの木の板2枚、ヤマウルシの木で作られたナギナタなどを持って神社に向かいます。神社の拝殿に到着すると、ネムノキの板にカゴザラ2つと箸2本と牛の舌もちを乗せて本殿左右の摂社に上げ、残りの餅は神事の際神社に奉納するため円形の木地の膳に配り、行列を待ちます。
ひことこ解説
『特殊神饌』
そのお祭(あるいは神社)だけに見られる特別なお供えのことです。
一般的な神事の際のお供えはお神酒や果物、洗米、するめなど全国一律に規定されていますが、地域や神社、まつりによって、特別な材料や調理法や形のお供えが用意される場合があり、そのまつりの特色ともなっています。餅ひとつ取ってみても、刀根は「牛の舌」の形ですが、ひし形の餅や鳥居や魚の形をかたどった餅を用意するところもあります。
■10時ごろになると行列が出発します。行列は東西の頭屋からそれぞれ仕立てられます。モチトリ2人が先頭に立ち、その後に頭屋や役割を与えられた子供たちが続きます。
まずヤマウルシの枝の杖を持ったショードン、御幣をかつぐタユウ、御供を乗せた「ひつのふた」を2人の婦人がささげ持ち、その下をヒツノフタと呼ばれる少女が歩き、お神酒樽を持ったオミキモチの少女、小さい炭俵を持ち、顔にヒゲを描いたスミヤキと続きます。タユウの御幣はオハコと同様に東が金銀、西は紅白の水引きで飾られています。
ヒツノフタのように御供の下・あるいは近くを歩く少女は敦賀や若狭各地の祭りにも登場し、神聖な御供を運ぶ役割を女性(少女)が担う慣習があったことがうかがえます。またスミヤキは刀根区が炭焼を行っていたことと関連があると考えられます。
行列が神社に到着すると神事が行われます。「ひつのふた」の御供も拝殿で膳に移し替え、神事の中で本殿に奉納されます。
無事に神事が終わると、午後2時ごろから頭渡しが行われます。頭渡しは頭屋の大役が次の年の頭屋に引継ぎされる儀式で、これも部外者立ち入り禁止となっています。頭渡しの際、ネムノキの板2枚の上にカゴザラ4枚を2枚ずつ重ね、ヤマウルシの箸を2組乗せて、東座はアゲドウフ、西座はニシンを紙に包んで乗せたオトウと呼ばれるものが祀られています。このオトウは儀式がすむと既婚の女性によって次の頭屋宅まで運ばれます。このオトウは神様の膳であると言われ、また夫婦の神様だから2組あるのだと伝えられています。
こうして頭屋の大役は次の頭屋に移り、刀根区にまた新しい一年が巡ることになるのです。
■ひとこと解説
『一年のサイクル』
主に稲作を中心とする農耕社会の場合、農作業の終了後に行われる豊作感謝の祭りは、一年の終わりでもあります。
年の始まりに豊作を願い、種蒔きや除草虫除けと言った一連の農作業の中にも祈りに即した祭りを行い、やがて実りに感謝して年を終えるという一年の環がここで閉じ、そうしてまた新たな年を迎えるという自然に則した循環を、今もまつりを通して感じることができるのです。
刀根・気比神社の秋祭り(3)